上原、クローザー1周年
いや~、面白い試合でした。マーくんとレスターの投手戦。1球のファストボールをたたいての決勝HR。そして、ここ4試合ちょっと苦労していた上原の、胸のすくような投球。マーくんの1球をめぐっては、配球にまつわる日米のちょっとした文化差も出たのかなあという気がします。でも、そこに行くまでにちょっと6月半ばからの上原の投球をざっと記しておきます。ついにレッドソックスのクローザーとして、まる1年がたちました。
6/10 オリオールズ0-レッドソックス1 勝: S:上原(13)
1点リードの9回に登板。1安打、無失点、2三振。14球。
前回のエントリで書きそびれたことをいくつか。
9回、1-0の最少リードでマウンドに上がった上原。先頭の、めちゃめちゃ当たってるピアスに初球をいきなりヒットされましたが、つづくフラーティーのピッチャー前へのバントを落ち着いて処理して二塁封殺。これが大きかった。日本人投手の守備力をなめたらあきまへん。
それと、マーケイキスをインコースのスプリットで三振に取っているのですが、じつはその前のスプリット2球は地面にたたきつけてるんですよね。やはり制球にはずっと苦労していて、ただ、ここぞというところでうまく決めた、という技ありのセーブでした。(ハイライト)
6/12 レッドソックス5-インディアンズ2 勝:レスター S:上原(14)
3点リードの9回に登板。無安打、無失点、1三振。14球。
6/14 レッドソックス2-インディアンズ3
1点リードされた9回に登板。無安打、無失点、2三振。13球。
6/15 レッドソックス2-インディアンズ3(延長 )
2-2同点の9回に登板。無安打、無失点、1三振。11球。
チームは、延長11回表に田澤がスイッシャーに決勝HRを打たれて敗戦。
6/16 レッドソックス1-ツインズ0 勝: S:上原(15)
1点リードの9回に登板。無安打、無失点。12球。メジャー通算50セーブ。本人は「そんなしょぼい記録どうでもいい」なんて言ってましたが、なんでも積み重ねですから!(全球ハイライト)
6/18 レッドソックス2-ツインズ1 勝:上原(2)
0-0同点の10回表に登板。ウィリンハム、モラレスといういやなところを打ち取ったあと、パーメリーに落ちきらないスプリットをすくわれて勝ち越しHR。ぼーぜん。しかしそのウラにオルティーズとナポリの連続HRでチームはサヨナラ勝ち。上原が勝ち投手に。
連続無失点は20試合で途切れてしまいました。1安打、1失点、三振1、13球。(全球ハイライト)
6/21 レッドソックス1-アスレチックス2
1-1同点の10回ウラ、ノーアウト一、二塁で、ムヒカのあとを継いで急きょ登板。初球を打たれ、サヨナラ負け。1安打、無失点(失点はムヒカ)。1球。ERA 0.83
登板して1球めでサヨナラヒット打たれたことなんて、あるかなあ……。
6/22 レッドソックス7-アスレチックス6 勝:上原(3)
8回まで6-1だったのが、8回ウラのA’sの反撃で6-4まで詰め寄られ、2点差になった9回ウラに登板。1死からヴォート、2死からジェイソにソロHRを浴びて、まさかの同点に。これで昨年から続いていた連続セーブが31試合(ポストシーズも入れると38試合)でストップしてしまいました。試合はそのまま延長へ。
◆勝ちを消された先発のレスター「ウエハラがすばらしすぎるんで、みんな抑えるのが当たり前だと思ってしまうけど、彼も人間だからね」
すると10回表、先頭のオルティーズが、コウジのレスキューとばかりに、センターの一番深いところへ17号ソロ(動画)。7-6と勝ち越し。ありがとー!
◆HRを打ったオルティーズ「いつもコウジに助けてもらってるんだから、たまにはこっちが助けないと」
上原は10回ウラも登板、こんどは3者凡退に抑えました。
2安打、2失点、1三振。23球。ERA 1.30
なお、この日は苦手のデーゲーム。Baseball Reference.comによれば、上原のデー&ナイトの通算成績はこんな感じ。
ナイトゲーム ERA 2.14 K/BB 10.32
デーゲーム 2.57 6.72
やっぱりデーゲームのほうが数字は悪いんですね(本人比)。それでも世間的に見たら十分立派な数字だけど。もっとくわしい数字をごらんになりたい方は、リンク先を見てください。
6/25 レッドソックス5-マリナーズ4 勝: 負:岩隈 S:上原(16)
1点リードの9回に登板。ヒットと四球で一、二塁とピンチを迎えるが、切り抜けて16セーブめ。1安打無失点、四球1、三振1。19球。ERA 1.26
1 カノーを2球め、フォークで2ゴロ。
2 シーガーに、2-1からの4球め、高めに浮いたスプリットをライト前に運ばれ1死一塁。
3 モリソンに3-1からフォークが高く遠くはずれて四球。2球めも大きくはずれていました。とても珍しい。
4 ズニーノを1-2から、アウトローのファストボールで空振り三振! 困ったときのアウトロー。ノムさんの言う「原点投球」です。さすが。
5 アクリーを1-2からの外めのスプリットで一ゴロ。ベースカバーの上原が打者走者アクリーと競争になって、ぎりぎりで競り勝ち。一塁ベースカバーが苦手(これでハムを傷めたことが何度かあり)な上原としては、全速力のナイスカバーでした。
上原自身もブログに記していますが、スプリットがことごとく大きくはずれたり、ベースはるか手前でバウンドしたりと、あまり見たことのないような荒れた投球。解説のエカーズリー(かな?)も、思わず”Ugly, ugly splitter” と口走るほどでした。それでも、キャッチャーのピアジンスキーが、ぜんぶ体で止めて、またスプリットのサインを出し続けてくれたから、どうにか打ち取れたんじゃないかな。また、スプリットを多投するなかに、ズニーノを打ち取ったようなみごとなファストボールが混ざっていたことも、アクリーを打ち取れた要因なのかもしれません。すっぽ抜けは、乾燥した西海岸の気候にやられましたかね……なんだか気になる登板ではありました。
全球ハイライト 本人ブログ
そしてようやくたどりついた、この試合。
6/28 ヤンキース1-レッドソックス2 勝:レスター 負:田中 S:上原(17)
9回2アウトからナポリのHRで勝ち越しという驚きの展開。
そこへもってきて、ここ4試合、すっきりしない登板が続いていたこと、前に勝ちを消してしまったレスターになんとしても勝ち星をつけたかったこと、などなどいろいろな要因が重なって、今季見ていたなかでも一番胸がしめつけられるような登板でした。
1 ベルトランを1-2からスプリットで空振り三振! 昨日は、マリナーズ戦のようにすっぽ抜けることもなく、いいスプリットが決まってました。
2 ソリアーノの代打イチローと今季初対決。ストライクワンから2球めのスプリット、うまく合わされたけれどもセンターフライ。打たれた直後は、「あ、ヒット!」と思いましたが、ジャッキー・ブラッドリーJrがいいところに守っていて、俊足を飛ばしてキャッチ。
3 マッキャンを2-2からよく落ちるスプリットで空振り三振! すばらしい。
無安打、無失点、四球なし、三振2。11球。試合経過も、ここにいたるまでの経過も相まって、ふだんより派手めのガッツポーズでした。
最後の場面
最後に、ウエハラの投球分析をしたVTRがMLBのサイトにあがっていたので、リンクをはっておきます。
☆MLB Tonight: Koji Uehara Demo☆
昨年、ワールドシリーズでウエハラの牽制を分析していたダン・プレザックと、昨年までブルージェイズでプレーしていたマーク・デローサがホスト。デローサは、よくムネリンとメディアの橋渡し役もしてましたね。
このなかでまずプレザックが5月27日と29日の、ブレーブス戦、ジェイソン・ヘイワードに対する配球を見ながら、ウエハラの頭のよさを語っています。
・5/27 初球、ファストボールでストライク。2球めスプリットで空振り。3球めはスプリットをよく見のがしてボール。そして4球め、そろそろまたファストボールが来るだろうと思うところにまたスプリットで空振り三振。Fb-Sp-Sp-Sp という配球。
・5/29 同じヘイワードとの対戦。初球にスプリットでボール。前回と逆の入り。2球めはファストボールでストライク。ここで打者は、「おい、なにしようとしてるんだよ?」と迷う。そして3球めは、考えがまとまらないうちにまたファストボールがきて空振り。4球めもファストボールで空振り。90マイルなのに100マイルのような空振りをしてしまう。Sp-Fb-Fb-Fb という配球。ほんとうに頭がいい。
つぎにデローサが、打者の目から見て、ウエハラのスプリットとファストボールがいかに区別しにくいかを語ります。
・まったく同じ腕の振りで、同じ高さから落ちてきて、本当に手元に来るまでどっちが来るか区別できない。
(ここでプレザックが面白いことを言ってます。「フォーシームだと、回転しながら来るとき、球の白い部分がたくさん見える。サークルチェンジだと、縫い目の赤い部分がたくさん見える。でもコウジの球は、どちらもまったく同じに見えるよね」へえ、そうなんだ! 投球の「色」について語られるのはあまり聴いたことがないので、新鮮な切り口。)
・パペルボンもファストボールとスプリットを持っていたけど、彼の持ち球は区別できた。球がもっと速いからそうそう打てなかったけれど、ファストボールはフォーシーム回転で、スプリットはナックルボールのように揺れるので、みきわめがついた。でもコウジの球はまったく同じに見える。
球の出所が同じで、同じ高さから落ちる、という話はよく聞きますが、色や球の質感も含め、ほんとうに見極めがつきにくい投球なんだなということがわかっておもしろかったです。
BOSのクローザーとして初セーブを挙げたのが、昨年の6月26日。ちょうど1年がすぎました。1周年にさしかかる試合でちょっと苦しい登板が重なりましたが、きのうのNYY戦のセーブをきっかけに、またいい投球を続けていけますように。
――マーくんのファストボール、そしてナポリの”What an idiot!”(←ぜんぜん暴言でもなんでもない。)については、スポーツ各紙の報道に対してちょっとした憤りを感じているので、また別エントリにて――
【追記】
上記の試合のあと、現地6/29のNYY戦でも8-5と3点リードの9回ウラにクローザーとして登板。18セーブめをあげました。
1回、3者凡退。三振1、16球。ERA 1.19
1 ブライアン・ロバーツをセカンドゴロ。
2 イチローを空振り三振!
3 ガードナーをセカンドゴロ。
イチローとの対戦は見ていておもしろかったです。1-2から5球め、6球め、スプリットをしぶとくファウルするイチロー。
放送席は「ファストボールへの布石を打っているみたいだね」と予想。
ところが最後、7球めもスプリットで空振り三振。放送席、思わず「ファストボールは来なかった」とつぶやき、イチローもやはりウラをかかれたような空振りでした。
今日も、ファストボールが大きくはずれる場面がちょくちょくあって、おそらくまだ自分の納得できる制球で投げられてはいないのだろうなと思ったのですが、上原の強さは、配球や、打者に考えるヒマをあたえないテンポも合わせた、総合体としての投球術なんだなあとあらためて感じたしだいです。