Koji's Classroom II

ボルチモア・オリオールズと上原浩治投手の応援ブログ。スポナビ+から引っ越してきました。

ホランド、一世一代の好投

去年の今ごろ、レンジャーズ vs SFジャイアンツのワールドシリーズを見ていました。リンスカムとポージー、それに元オリオールズのオーブリー・ハフの活躍に心を奪われていて、レンジャーズの選手はハミルトンとヤングぐらいしか知なかったのだけど、その中で妙に印象に残ったのが、レンジャーズのとあるリリーフ投手。マウンドにあがっとたん、投げる球、投げる球ボールばかり。四球を連発して傷口を広げて、球場全体に「あーあ」という空気が広がり……。

今にして思えばあれがデレク・ホランドだったんだなあ。ワールドシリーズ、デビューで、13球中12球がボール。四球3。しかもそのランナーが全員生還。でもその苦いデビュー戦を、今は笑って話せるというホランド。今日は、ノーラン・ライアン球団社長が"the performance of his life"(一世一代の好投)とたたえたすんばらしいピッチングを見せました。

ホランドは、今年のポストシーズンでは、ディビジョンシリーズのレイズ戦こそ5回を投げて勝ち投手になり、その後中継ぎでも好投しているものの、ALCSのタイガース戦の先発ではまったく制球定まらず、2回2/3、四球4、3失点で降板していました。(あのクルーズのサヨナラグランドスラムの試合です。)

そうして迎えた今日のWS第4戦。昨日、カージナルスがプホールズの3HRという歴史的な大活躍で2勝1敗とリードし、レンジャーズとしては何が何でも勝たなくてはならない1戦。試合開始前、ワシントン監督はホランドの両肩に手をかけて、まるで息子に言いきかせるように「落ちついて自分らしく投げろ、インコースをつけ」と言い含め、最後にはほっぺたをピシャリとひとつたたいてから送りだしました。

その期待に応えたホランドは、8回1/3、2安打、2四球、三振7、無失点。ワールドシリーズで8回1/3以上を投げ、2安打以下で無失点に抑えたのはなんと1971年のNelson Briles(オリオールズ)以来で、史上12人めだとのこと。 2回表、フリースを見逃し三振にとった球は惚れ惚れしたなあ。5回、先頭のバークマンをヒットで出したあと、やはりフリースをセカンドゴロダブルプレーにとった投球もすばらしかった。そして何より昨日3HRのプホールズを遊ゴロ、一飛、投ゴロ、中飛と完全に抑え込んだのが非常に大きかった。制球がはまったときのホランドはほんとうにすごいです。動画はこちら。

一方、攻撃陣は、初回に脚のつけ根の痛みで不調が続いていたハミルトンのツーベースで先制。「打ってほしい人ナンバーワン」のハミルトンだったので、非常に幸先のいいスタートだったのですが、その後満塁にして追加点が取れず。次の2回にはキンズラーの牽制アウトがあり、5回にはアンドルースがバントミスでランナーを進められないなど、流れを相手に渡してしまいそうな瞬間が多々ある重苦しい展開でした。ふだんより若干気温が低く、風もなかったようで、前日なら軽くスタンドに届いていたであろう打球がフェンス手前で失速する場面も多く、重さに拍車をかける印象。

それでも、ホランドが味方の好守の助けも借りながらクリーンにアウトを重ねていったのが大きかった(こちらは初回のベルトレ。このライナーが抜けていたらまったく別の試合になっていたでしょう。)

そしてついに6回。四球2つで一、二塁としたあとナポリの超絶3ラン! 

ナ・ポ・リ!  ナ・ポ・リ!(この「Napoli chant:ナポリコール」、ふつーのカタカナの発音と同じなのがおもしろくて気に入ってます。)

NHK解説の小早川さんによれば、このインハイの球を真芯でとらえるとファウルになってしまう。少しつまったからこそフェアゾーンに飛んだのだとのこと。しっかし、つまってあそこまで飛ばしますかい。ホントにすさまじい腕っ節であります。

けっきょくこのあとホランドが8回1/3まで投げ抜き、ファーカルに四球を出したところでワシントン監督がマウンドへ。「投げさせてください。ぜったい打ち取ります。ゲッツー取ります」と「懇願」するホランドに、ワシントン監督は「ひざまずいてお願いしろと言った」とのことで、試合後の会見場は爆笑に包まれたそうな。ホランドは仲間にぽんぽんと肩をたたかれ、5万の観衆のスタンディングオベーションをあびながらマウンドをおりたのでありました。

「すごかった。ぞくぞくして腕の毛がさかだったよ。あんまり生えてないけど――」

さすが、どこまでも笑かしてくれるホランドです(笑)。もやはトレードマークともいうべきあの情けない口ひげは「メジャー最悪」と評判で、相手のフリースまでもが「おもしろい」とコメントするほど。本人も、もはやネタで生やしてるんでしょう。「ユニフォームを着た十歳児」とマイケル・ヤングに言わしめるキャラクター。「でも、向上心は人一倍だね。一流投手になるためにするべきことは全部やっているよ」

そんなホランドのストーリーを試合後のインタビューを務めたFOXテレビのローゼンタール記者がこちらにまとめています。その中でも特におもしろいエピソードを最後にご紹介。

ホランドは試合前日、必ずパスタを食べ、ホッケーのテレビゲームをしてから、ケビン・コスナー主演の映画『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』の同じ場面を見るのだそうです。それはコスナーが、試合に向けて準備を進めるシーン。そして主人公がマウンドに上がるシーンでビデオを止め、そのあとは自分がマウンドに立った場面をイメージする……。

高校のころから続けている習慣で、なんとこの映画全体を見たことはまだない(!)とのこと。見るのは引退後だそうです。

ほんまにおもろいホランドくん。惚れたぜ。

さて、今日は第5戦。なんとしても取りたいところ。ここはポストシーズンで1勝もしてないエースのCJウィルソンの奮起に期待するしかありません。なお、移動後の水曜日は雨の確率が80%だそうで、順延になったら第7戦にまたホランドを投げさせるのではという観測もあったけれど、ワシントン監督は「7戦はハリー(ハリソン)の試合だ」と明言しているとのことです。

【追記】さらに、今ツイッターをチェックしていて拾ったエピソード:

・きのう、プホールズの投ゴロが当たったホランドのふくらはぎ(ひざの裏あたり)、今日は青あざになってるとのこと。「プホールズ、サインしてくれないかな」とホランドは言ってるそうです(笑)。

・グラウンドキーパーがみんな口ひげを生やして、ホランドを握手攻めにしているとのこと。ホランドは、子どものころあこがれていたペティートを始め、昨夜は200通以上のメールを受けとったようです。