Koji's Classroom II

ボルチモア・オリオールズと上原浩治投手の応援ブログ。スポナビ+から引っ越してきました。

ひげがあろうとなかろうと:ワールドシリーズを待ちながら

ALCSでMVPを受賞したとき、上原はまたひとつ希有な体験をしました。

ご存じのとおり、満員のフェンウェイパークをどっと沸かせたのです。しかも親子で。

いやあ、MVPはもちろんうれしかったでしょうが、アメリカの野球ファンを笑いに包んだあの瞬間、上原の大阪人の血は沸き立っていたのではないでしょうか(笑)。

こちらがそのシーン。

せっかくなので、やりとりも記しておきましょう。

インタビュアー:第5戦のあとジョン・レスターが、コウジは投げるまえ爪をかんでたって言ってましたけど、プレッシャーはどれくらいありましたか?

上原:正直、吐きそうでした。

通訳の松本さん:To tell you the truth, I almost... threw up.

観客、大爆笑。

インタビュアー(息子の一真くんに):カズ、パパが、投げているとき吐きそうだったっていってるけど、あなたはどう? パパが投げているのを見てるときどんな気持ち?

一真くん:わかんない。(I don't know!)

インタビュアー:吐きそうになる? それともわくわくする?

一真くん:わくわくする。(Excited!)

観客、またどっと沸く。

すばらしい(笑)。通訳の松本さんもさすがでした。あの一瞬のタメが、いい間になりましたし、クリアな英語、勉強になります。

えーと、このインタビューのあと、一真くんが英語を聴きとれるんだ!とか、英語ぺらぺらなんだと感心する声が多く聞かれましたが、当然です。2006年、WBCでパパが韓国戦に勝利した翌日に生まれた一真くんは、2009年、上原のメジャー移籍とともに渡米。以来、ボルチモアに住みつづけ、おそらく今も現地の小学校に通っているはず。子どもが3歳から7歳まで英語の環境のなかにいたら、話せるようになるのが自然ってものです。むしろ、物怖じせずに、ハキハキと大きな声で受け答えしたところに大物ぶりを見ました。将来が楽しみです。(上原はよく「ゴルファーにしたい」なんて冗談混じりに言っていましたが。)

ああ、それにしても上原の表情の、なんと若々しく、充実していることか。2009年、オリオールズで先発ローテに加わり、まもなくひじを壊して投げられなくなったとき、必ずまた戻ってくると信じながらも、先の見えない暗澹たる気持ちにかられていたことを思うと、ほんとうにただただよかったという思いでいっぱいです。

いくつか写真やビデオにリンクを貼っておきます。

最後の場面。すごくいいショット。

ぎょろ目の兄さん、ビクトリーノのグラスラ。なんであそこで飛び出すのか。シリーズの一番だいじなところで2本もグラスラなんてあり?? 

(ああ、それにしてもゴロをはじいてしまったイグレシアスくんは気の毒でした。ゴロをとってから投げるまでのオニのような速さや、すばらしい守備範囲。華麗なプレーという言葉はこの人のためにあるのかと思わせるプレーヤーですが、今回はつらいプレーオフになりましたね。ぜひともこれを踏み石としてまたひとまわり大きくなってもらいたいです。)

そして上原の活躍ぶりをまとめたビデオ。やばい、かっこよすぎる。

ところで、また今回も怒濤のようにフィーチャー記事が出ています。とても全部は紹介しきれないので、とりわけユニークだったNYタイムズの記事を1本ご紹介しましょう。

ここまで上原の特集記事は、あの連続アウト記録のころは主に記録にフォーカスしたものが多く、それが途切れると今度は、上原の人となりや、ここにいたるまでの人生行路をたどったものが数多く出ました。それもひととおり出尽くした今、次はどうするのかなと思っていたら、こんどはめっちゃユニークな切り口の記事が登場しはじめました。FanGraphsでは、わたしの好きなジェフ・サリヴァン氏が、今季3球しか投げていない上原のカーブに注目したオタクな記事を発表。こちらはまたあらためてご紹介します。

そしてNYタイムズには、上原のヒゲに注目した記事が出ました。切り口もユニークなんですが、なんと〈ベストスポーツ〉でヒゲをそったことにまで触れていて、なんでそんなにくわしいの?と驚くばかり。思わず全部訳しちゃったので、お読みください。なお、文中の上原の言葉はあくまでもわたしが訳したものなので、元のご本人の発言ではありません。どうか誤解なきよう。

Beardless in Boston: Uehara Stands Out

By DAVID WALDSTEIN

もじゃもじゃのひげ面が団結のシンボルという2013年レッドソックスのなかにあって、ア・リーグ優勝決定シリーズ(ALCS)のMVPである上原は、その投球以外でも目立つ存在だ。

上原はひげを生やしていない。チームメートは、生えないから仕方がないと思っているようだが、そういうわけではない。

レッドソックスのひげ面が世間を騒がせるはるか前、上原もひげをたくわえていたのだ。

上原のひげ面は日本でも有名だった。口のまわりをぐるりと巻いて、もみあげにつながる悪漢めいたひげで、友人やファンの多くから「きたない」「粗野」と悪評ふんぷん。それでも上原はがんとしてそらなかった。

ひげを生やしはじめたのは、オリオールズにいた2010年のことだった。レンジャーズで過ごした2シーズンのあいだも生やしつづけた。その間、2011年のプレーオフでは3試合登板して3被弾、33.75という防御率を残し、クラブハウスで涙を流した。2012年12月8日にはレッドソックスと契約したが、そのときにもまだひげを生やしていた。

ところがその3週間後、上原はNHKテレビの〈ベストスポーツ〉という番組のなかでひげをそり落とし、ファンを歓喜させたのだ。

「自分がどこに向かってるかわからなくなったんでそりました」と、上原は、ALCS第6戦の前に語った。「ちょうどいいタイミングだったし、みんなに喜ばれましたよ。若返ったって言われました」

ひげのない上原は、レギュラーシーズンで自己ベストの防御率1.09を記録し、6月26日には正式にクローザーに就任。21セーブをあげた。プレーオフでも好調をキープし、8試合、9イニングを投げて失点はわずか1。セーブは地区シリーズのレイズ戦で2個、ALCSのタイガース戦で3個の計5個をあげている。土曜日の第6戦でも最後をしめくくり、チームにペナントをもたらした。

ポストシーズンでの好調ぶりはひげをそったせいなのだろうか? 

「わかりません。考えたこともない」と上原。

チームメートの多くは、上原がひげを生やしていたことを知らず、テレビ番組のなかでそったと聞くと驚きの声をあげた。

「まじで?」と、やはりひげ面の捕手、デイヴィッド・ロス。「生えないんだとばかり思ってた。そりゃあいいな。写真を見つけてクラブハウスにかざらなきゃ」

上原の今ポストシーズンの成績は、2011年、レンジャーズ時代のそれとは天と地ほどもの開きがある。あの年、レイズとの地区シリーズ第2戦からタイガースとのALCS第5戦までのあいだに、上原はエヴァン・ロンゴリア、ミゲル・カブレラ、ライアン・レイバーンにHRを喫し、以後、登板がなかった。

3本めのHRを打たれたあと、上原はテキサスのクラブハウスに座りこんで涙を流した。チームメートも、さらには上原の直情径行をよく知る日本の報道陣をも驚かせた光景だった。

人前で涙を流したのは初めてではない。1999年9月、読売ジャイアンツ時代、上原は監督からヤクルトスワローズロベルト・ペタジーニに対する敬遠指令を受けた。ペタジーニは松井秀喜と激しいHR王争いを繰りひろげており、ジャイアンツはペタジーニにHRを打つチャンスを与えたくなかった。(訳注:この日、ヤクルトは最初の打席から松井に敬遠気味の四球。上原は勝負を直訴して、1、2打席めはペタジーニを打ち取っています。しかし松井に対する敬遠への報復として3打席め、ついに敬遠指令が下りました。)

24歳のルーキーだった上原は、この指令に反発した。遠い外角に速い球を4球投げると、くやしさのあまりマウンドの土をけりあげた。その後、TVカメラは上原が涙をぬぐう場面をとらえた。

「自分のせいで誰かがタイトルをとれたり、とれなかったりするのがいやでした」上原は試合前に語ってくれた。「タイトルをとるなら、フェアに、自分が誇れるようなやりかたでとらないと」

フェンウェイパークALCSの戦いが終わったとき、上原はファンの好感度をさらにアップさせるひと言をはなった。MVPの受賞インタビューのなかで、プレッシャーがあったかとたずねられると、いつもの調子でこう答えたのだ。

「正直言って、吐きそうでした」大観衆がどっと笑った。

無人島の漂流者のような選手たちのなかにあって、上原がひとりつるつるの顔をしているのは、ある意味正しいと言える。そもそも、かつてひげを生やしていたのは、ほかの日本人選手と区別してほしいという気持ちが出発点だった。

それが今ではレッドソックスでひげ面の荒くれ男たちにかこまれている。目立つにはべつのやりかたが必要だ。

「今、ひげを生やしたら、かえって埋もれちゃいますからね」

しかし、今ポストシーズンのようなピッチングを続けていけば、上原はどんな試合においても目立っていられるはずだ。

ほんとに、この DAVID WALDSTEINさんって何者なんでしょう。並みの日本人記者より上原のことにくわしいような。目立ちたかったからひげを生やした、とか、こまかいところを妙に的確にとらえています(笑)。それにしても、第6戦の前にひげについてインタビューした人なんて、ほかにはぜったいいないよねw いやはや、ユニークユニーク。

さて、もうこのままゆっくり喜びにひたっていたいような気もしますが、これからまだワールドシリーズがあるんですね。ほんとうに過酷です。でも、今回は堂々ロスターに加わって、中心選手として戦えるのだから、喜びの方が大きいでしょう。この3日間の休みのあいだにいったん気持ちをリセットして、また新鮮な心と体で戦いに挑んでほしいと思います。

Go, Koji!