Koji's Classroom II

ボルチモア・オリオールズと上原浩治投手の応援ブログ。スポナビ+から引っ越してきました。

『不変』とカーブとFangraphsと

日本のプロ野球のキャンプがはじまり、メジャーのスプリングトレーニングも間近(オーストラリアで開幕戦を迎えるダイヤモンドバックスドジャーズはもう始動しています)。一昨日は関東には珍しいどか雪もふりましたが、球春はそこまできています。

2月8日(土)、上原浩治の新刊『不変』の発売イベントに行ってきました(スポニチ)。

撮影禁止だったのであいにく写真はないのですが、限定190名の申込者を時間で4グループにわけ、それぞれのグループで上原さんが全員にハイファイブするという趣向。そのあと、あらかじめサインをすませた著書をひとりひとりに手渡ししてそこでまた握手、という、胸熱なひとときでした。

そうそう、ハイタッチの前にスタッフの方から、「むかし門田博光とブーマーがハイタッチして門田が脱臼したといいうことがありましたので、どうか常識の範囲内で」という注意があって、なつかしい名前に思わず参加者からも笑いが。さすがにいくら興奮してもそれは無理です(笑)。ともあれ、夢がかなって上原さんとハイファイブができたのは、何よりもうれしいことでした。わたくし、2006年のWBCのあと東京ドームで行われたサイン会にもかけつけたのですが、そのときと同じく上原さんの手はやっぱりふわっとして柔らかかったです(*^-^*) 

ミーハー&自慢モードのしめくくりとして、2006年版と2013年版、ふたつのサインを。

著書は、ファストボールやスプリットの握りを惜しげも無く公開している第2、3章をはじめ、興味深い内容が満載。フォークを投げ分けているのは知っていたけど、フォーシームも握りを変えて投げ分けてるんだなあ。こんなにくわしく説明しちゃって大丈夫?とも思うのですが、これも自信と覚悟の表れなのでしょう。中身の濃い1冊で、上原ファン以外の方にもおすすめです。

この著書のなかにも「なぜ「89マイルのボール」でバッターを打ち取ることができるのか。よく質問されるのだが、正直、僕にはわからない」とあるのですが、そのひとつの要素であろうと思われる「回転数」について、昨年秋におもしろい記事が出ていました。この、オフシーズン最後の上原エントリでは、ずっと宿題として抱えながらご紹介できずにいた記事を紹介しておきたいと思います。

まずはその回転数の記事から。

Measuring Pitching with TrackMan

これは上原にフォーカスしたというよりはTrackMan という、軍用のドップラーレーダーで元来ゴルフスイングの解析を行っていた会社がTrackMan Baseballを立ちあげて野球データの分析に着手したという話。そのなかで投球の回転数に注目した記事です。

表は元記事をごらんいただきたいのですが、それによると、ファストボールのスピンはゴロ/フライ率および空振り率と相関関係が高いとのこと。ボールの回転数が低いほど空振りが少なくてゴロ率が高く、回転数が高いほど空振りが多くてゴロ率が低いことが数字的に示されています。

以下に一部を抜粋します。表とGif画像は元記事をごらんください。

     =================

空振りをとるのに必要な要素は球速だけではない。回転数の高さも大切な要素だ。球速が平均か平均以下なのに空振りを多くとるファストボールは、よく「打者を幻惑する(sneaky)」と表現される。スピンのかかった球は、手元でホップする。それがファウルや空振りをとれる理由だ。トラックマンの分析によって、回転数のほうが球速よりも空振り率との相関関係が高いことがわかってきた。スピンのかかったファストボールの代表として、上原浩治のファストボールを見てみよう。

(Table&Gif)

メジャーリーグ投手の平均球速と平均回転数はそれぞれ92マイルと2200回転。一方上原は、89マイルながら2427回転している。

いいバックスピンのかかった回転数の多い球は重力に逆らい、回転数の少ない球にくらべると沈み方が遅い。したがって打者の目には、予想よりも手元で伸びるように見える。完全に重力に反するライズボールはだれにも投げられないが、重力に逆らう力を利用すれば、打者の目をあざむくことができる。

     =================

なんとなく知っていたことではあるので、そこまで新しい内容ではないかもしれませんが、実際の回転数が数字で表され、さらにゴロ/フライ率、空振り率との相関関係もはじき出されているのが非常に興味深いです。上原は著書でも「ボールを切る」こと、すなわちリリースの瞬間に中指と人差し指で強くボールを押し出すことが大切だと語り、「ボールを放す瞬間に「プチッ!」という音がして驚かれることがある」とも記しています。それほど強いバックスピンのかかった球だから、空振りをさそうのですね。

つぎにFangraphsからジェフ・サリヴァン氏の記事を2本。まずはこちらから:

Finding Koji Uehara’s Worst Pitch of the Playoffs

「上原のプレーオフ最大の失投は」 ジェフ・サリヴァン 2013.11.1

タイトルだけだとネガティブにも見えるのですが、2012年にこちらでもご紹介したスクータロの見逃し三振を徹底分析した記事と同様、ねらいどおりにいかなかった数少ない事例を通じて、すごさを浮き彫りにするという記事です。かいつまんでご紹介します。

ポストシーズンの1か月、上原は13登板で169球を投げました。そのなかで、ロバトンに打たれたサヨナラHRのように、「いい球だったけれど結果的に長打」という投球ではなく、結果のいかんにかかわらず、投げた瞬間にはっと息をのむような危ない球はどれだったのかを探ろうというこころみです。

その過程がすごい。四球は出していないのでボール球を除外し、アウトコースは一般的に長打につながりにくいのでそれも除外し……と考えると、その時点でたちまち候補は24球にまでしぼりこまれます。さらに高低も考慮してど真ん中のゾーンにしぼると候補は9球に。9/169です。ポストシーズンの上原が、いかに精度の高い投球をしていたか。最終的にたどり着いたのは10月7日のALDS第3戦、4-4の9回裏にロンゴリアに投じた1球でした。

条件の設定のしかたなど異論もあるかもしれませんが、失敗をさがすことですごさが浮かびあがるのがおもしろいところ。しかもこのときの「失投」は大事にはいたらず、逆につぎの打者であるロバトンに投じた、いいスプリットをHRにされています。これについてジェフ・サリヴァンはつぎのように語ります。

「ピッチャーの成功と失敗を分かつものは、それほど紙一重だともいえる。ストライクゾーンの球はどれもHRになる可能性があるし、空振りを奪ったりポップアップを誘ったりする可能性もある。ピッチャーが投球結果に及ぼせる力にはかぎりがあり、そう考えると偉大な投手が偉大であるのは奇跡的なことだ。」

まさしく。全訳はこちらをどうぞ。

本筋とは関係ないのですが、最初の段落に「上原とレンジャーズは初めからしっくりきていなかったように見える。どうも「研究所のパートナーとして割り振られたものの、互いにほかのメンバーにばかり目がいってしまう」という関係に似ていて、あまり相性がよくなかった」という記述も、わたしがずっと感じ続けていたことだったので、鋭い!と膝をうちました。

2本めはこちらの記事:

Koji’s Curve 「コウジのカーブ」

by Jeff Sullivan - October 21, 2013

こちらは先ほどの記事より早くALCSのあとに書かれたもの。上原が今季3球だけ投げたカーブを振り返っています。全訳はこちら。

最初の2つのカーブは6月初旬に投げています。1つめはイチローとの対戦で。2つめはケンドリックに対して。これは大きくそれてなんと上原のメジャー初死球になってしまいました。このことについてジェフ・サリヴァンはつぎのように述べています。

「悲しいのは、これが上原の今季初の死球であるばかりか、メジャーリーグでの初死球でもあったということだ。レギュラーシーズン通算286イニングで死球はこの1個だけ。しかもポストシーズン11.1イニングでも死球はゼロ。【注:この記事はALCSのあとに書かれています。ワールドシリーズの4.2イニングも加えると16イニング。】さらにマイナーリーグの7イニングでもゼロだ。そればかりか、日本時代の2008年にも死球はなかった。だからケンドリックの前の死球は2007年にまでさかのぼる。なかなかすばらしい連続無死球の記録を続けていたのに、新球を試すために自分で記録を途切れさせてしまうなんて。欲張り!」

「欲張り!」の原文は"Greedy!" 最初に読んだとき思わず笑ってしまいました。ほんとに"Greedy!"なんだもの。それにしてもすごくないですか? あれの前の死球が2007年までさかのぼるなんて。

昨年2013年の12/29日に放送された『BSベストスポーツ』のなかで、上原はこのときのケンドリックとの対戦を「印象に残ったバッターNo.1」に選んでいます。カーブがすっぽぬけてぶつけてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれども、目があったらケンドリックが笑っていたと。さらに球種が少ないからつねにもうひとつほしいという気持ちは持ち続けていること、本当は横への変化(スライダー/カッター)がほしいことなども語っていました。

もうひとつこの記事でおっ!と思ったのが、やはり導入部分の「ある意味、上原の第3の球種はコントロールだともいえるだろう」という一文。やはり『ベストスポーツ』がらみなのだけど、上原自身もこれとまったく同じことを語っているのですよね。そのあたりのことをキャスターの生島淳さんがNumberのコラムに書いておられます。ジェフ・サリヴァンがこの番組を見ていたとは思えないので、同時発生的に出てきた言葉なのか。ちょっと驚きました。

ともあれ、この「第3の球種」である絶妙のコントロールを身につけながらも、それに甘んじることなくさらに新たな可能性を追いつづける上原。その裏には、上で紹介したNumberの記事にもあるように「進化していかないことには、すぐに打たれますよ」という危機感もあるだろうし、まだまだ伸びる余地はある、自分の可能性をもっと探りたいというポジティブな志向もあるのでしょう。

15日土曜日には、多くの球団でまずバッテリー組のスプリングトレーニングが始まります。上原もおそらく今日明日にも渡米することでしょう。ああ、なんと短いオフであることよ。でも、ことしは例年以上にいろいろな番組や雑誌の記事などで楽しませていただきました。

どこまでも上をめざして戦う上原浩治を今年もめいっぱい応援したいと思います。(は~、今年もジレンマに満ちた1年が始まるのか(笑))

【追記】雪のボルチモアで飛行機が欠航になり、1日足止めを食ったようですが、現地15日にキャンプ地入りしたようですね。カズくんもいっしょなんだ~。チームのオフィシャルツイートから写真を。