Koji's Classroom II

ボルチモア・オリオールズと上原浩治投手の応援ブログ。スポナビ+から引っ越してきました。

O's:静かで騒がしいオフ(2)騒がしい編

はじまりは昨年12月7日、ケン・ローゼンタールのこのツイートでした。

Sources: #Orioles GM Dan Duquette a top candidate to be #BlueJays’ president. Move would be a promotion. Difficult for O’s to stand in way.— Ken Rosenthal (@Ken_Rosenthal) 2014, 12月 7

オリオールズのGMダン・デュケットがブルジェイズCEO後任の第一候補に。昇進にあたるので、O’sには阻止しにくい。)

「は???」

というのが第1リアクション。だってそうでしょう。17年ぶりの地区優勝を果たし、戦力もととのってきて、ようやくこれからWS進出もねらおうかというところで、2018年まで契約しているGMの引き抜き? それも同地区のライバルに? あり得ん!

ローゼンタールのいう「昇進だから阻止できない」という記述について補足すると、たしかにメジャーリーグにはそういう慣習があります。たとえば自軍のベンチコーチに他チームから監督の口がかかったり、バッティングコーチにベンチコーチの口がかかったりすると、たいていの場合は「がんばってね」と快く送りだすのが慣例になっています。監督からGMへの昇格などもそうです。集団への帰属意識の強い日本では、契約年数を残しての引き抜きなどあまり考えられないので、これもMLBを見るようになって驚いたことのひとつです。

しかし、こんどのケースはそれとは違うんじゃないの?というのが、「は?」のあと最初に考えたことでした。

ローゼンタールは「昇進」と言っていますが、オリオールズにはCEOという職掌がありません。オーナーのアンジェロスをのぞけば、デュケットが事実上、球団トップです。ちなみに正確にはGMでもなくて、Executive Vice President of Baseball Operationsという役職なので、訳語に困ったスポーツ紙に「編成本部長」などと書かれることもあります。そうすると「育成本部長」とかもいそうで、あまりエラくないみたいに見えます。でもデュケットのしていることは要するにGMの仕事。ジェイズにはGMとCEOがいるようですが、それは組織の形が違うだけなんだから昇進といわれても釈然としないわけです。

それでもこの時点ではまだ、かんたんに火を消し止めるチャンスがありました。同時に候補として名前を挙げられたナショナルズGMのリゾーとホワイトソックス副社長のウィリアムズは、「興味がない。自分のチームを強くしたい」ときっぱり。ところが折しも開催初日のウィンターミーティングでコメントを求められたデュケットは「ここへはオリオールズの一員としてきている。それ以外につけ加えることはないよ。契約があるし、わたしはいつだって、契約にはきちんと従ってきた」と、はぐらかすようなコメント。だれもが期待していたように「興味がない」ときっぱり否定することはありませんでした。

同じ日にピーター・アンジェロスは「デュケットのすばらしい働きには大変うれしく思っているし、契約を満了してくれるものと期待している。残留してほしい、というだけではなく、残留してくれるはずだと考えている」とかなり強い言葉で「この件はもう打ち切りにしよう」という趣旨のコメントを出しました。またジェイズからもビーストンCEOが退任をのばして2015年もCEOを勤めるという報道があり、一件落着かと思われました。当初の経緯をまとめたMLBTRの記事へのリンクも貼っておきます。

しかーし、沈静化の期待はむなしく打ちくだかれました。

もうあの話は終わったかなと思うたびに浮上する続報。どうやらデュケットの側に、移籍したいという強い希望があるらしいのです。報酬がかなり違うようなので、むべなるかなと思うところもありますが、でも、デュケットの得意技はスカウティングや選手評価、それからロスターの操作。オリオールズでもたとえばオールスター休みで登板機会のない選手を1Aや2Aで投げさせたり、DL入りの選手が出そうなときには、すぐに下から選手をあげられるよう、マイナーの遠征先の飛行機チケットをおさえておいたりと、たいへんこまやかな仕事をしていました。だからCEOなんかになるよりも現場にいたほうが輝けるんじゃないの?と思ったわけです。

そんなわたしの疑問に答えてくれたのが、MASNのメルースキー記者がESPNのキース・ローにインタビューしたこちらの記事(12月8日付)でした。キース・ローって、2002年~06年までジェイズのフロントで働いていたんですね。だからある程度内情にもくわしい。「なるほど!」と思ったところをいくつか抜粋します。

「他チームから有能なGMを引き抜こうとしても、なかなか許可が出ない。だから昨今は、会長なりCEOなり、GMより上の役職を用意し、それに高給をつけて招聘するというやり方が多くなってきた。テオ・エプスタイン、アンドルー・フリードマンなどみんなそうだ。そのあとあらためてGMを雇って、ダブルGMのような体制でやっていく」

(これは、まさに「なるほど!」という感じ。ジェイズにはもともとCEO職がありますが、その権限を拡大するということはいくらでもできるでしょう。もっともそうなると現GMとのあいだに当然権力闘争は生じるでしょうから、そこはまた一悶着なのかもしれませんが。なお、フリードマンは、たしか引き抜きではなく契約満了だったはずですが、ドジャースはCEO職を新設して彼を迎えました。)

「ぼくがピーター・アンジェロスだったら『どうすれば残ってくれる?』ときくだろうね。『きみのおかげで15年負け越しつづきだったチームが勝てるようになった。ファームシステムも向上している。肩書きもやるし給料も上げるから残ってくれ』と。トロントは本気で取りに来るだろうが、ボルティモアにも手放す理由などない。

たしかにメジャーリーグには、昇進の場合はひきとめないという慣習がある。でも絶対そうしなければならないわけではないし、GMより上の地位というのは基本的にはないのだから、その慣習は、このケースにはあてはまらない。

一般社会では契約があるかぎり、それを一方的に破棄することはできないから、勝手に退団してトロントに行くということもできないだろう。そんなことになればオリオールズが契約不履行で訴訟を起こすことも、法律上は可能だ。

トロントからの働きかけは、タンパリングとは言い切れないが、かなりきわどいね。ウィンターミーティングに合わせてニュースがリークされたというのも、偶然とは言い切れない気がする。もっともこういうリークはしょっちゅう起こるんだ。フリードマンドジャーズに行ったときも、だいぶ前に情報が入っていた。こうすることで相手方のチームにも、いなくなった場合の心構えや、代わりの人材の準備をする時間を与えるという意味合いがあるんだろう」

そして最初のリークから1か月半、事態はますます混迷の度を深めています。

オリオールズ側ではピーター・アンジェロスがふたたび「トロントからは何もきいていない。デュケットはどこへもやらない」と言明。

◎にもかかわらずうわさはいっこうに止まず。デュケットは、給与のはるかにいいトロントのCEOの座をかなり真剣に狙っているそう。記者から何をきかれても「今はコメントするときではない」とはぐらかしつづけています(--;; 

◎いっぽうオリオールズ内部でも「そんなに行きたいなら行かせちまえ」といらいらする人たちがかなり出てきたもよう。MASNのクバトコ記者によればフロント内がかなりざわついていて、そんな状況を”Toxic”(害がある)と表現する人たちが複数いるとか(ソース:MASN)。

◎代わりをどうするということも話しあわせるようになってきたらしく先日はこんな名前のリストが。えーと、なんですか、コレッティ(フリードマンの前のドジャースのGM)、タワーズ(去年最下位だったダイヤモンドバックスのGM)、オマー・ミナヤ……って、がんがん高給取りをとりまくったり、自軍の若手をトレードで出しまくったりするGMばかりじゃないですか(--;; またオリオールズを暗黒時代に戻したいのか? 

てか、そもそもなんでこんなことで悩まなくちゃならないんでしょう? 

MLBは日本じゃない。そんなことわかっちゃいるけど、優勝した年のオフに、同地区のライバルチームからGMが引き抜かれるかもしれない世界って、どれだけ生き馬の目を抜くワールドなんですか。ほとんど悪夢なんだけど……。

と、ぶつぶついいながらオリオールズがああでもない、こうでもないと水面下の動きを続けているうちに、こんどはMLB機構が「どっちでもいいからさっさと解決してくれ」と言うてきたらしい。

オリオールズも、「補強が進まないのは、ひょっとするとデュケットがトロントへ行きたくて、やる気がないからなんじゃないのか?」と勘ぐるファンや職員たちが出てきて(わたしはそうは思っていません。去年もこの時期まではこんなものだったので)そろそろはっきりさせたほうがいいんじゃないかというモードに入ってきました。

そこでついに浮上してきたのが、補償。

これまで監督やGMの移籍に際してはたいした補償は行われてきませんでした。エプスタインのカブスへの移籍しかり、ファレルのレッドソックスへの移籍しかり。でもどちらも不本意なシーズンのあとで、ファンも球団も監督交代を考えるタイミングでした。(ファレルに関していえば、主力のリンドがあとから文句を言っていたのも思い出します。)

しかしデュケットはちがいます。なにしろベストGM賞に輝いたばかりというタイミング。契約もあと4年残っています。つまり前例がない。今日は昨年のドラフト1巡め(全体9位)指名の右腕、ジェフ・ホフマンの名前が浮上しました。

If a TOR/Duquette deal is finished, compensation will be substantial. Jeff Hoffman discussed.— Buster Olney (@Buster_ESPN) 2015, 1月 22

数日前にジェイズの番記者さんのインタビューを読みましたが、その時点では「ジェイズはビッグネームは出さないだろう」と語っていました。しかしそれならオリオールズは「この話はなかったことに」といえばすむわけですから、立場が強い。

おまけにタンパリングで苦情申し立てをすることを視野に入れているという話もあります。

オーナー、ピーター・アンジェロスは弁護士。

現在もMASNの収入をめぐって、MLBとナショナルズを向こうに回してどろどろの係争中(汗)。

こうと思ったらぜったいあとにひかないという評判の持ち主でもあります。それが悪い方に出ることも多々ありますが、今回ばかりは、アンジェロスさん、たのむ、と思っているファンも多いはず。非常に小柄なんですけど、なにせコワモテ。わたしはひそかに「コワモテのヨーダ」と呼んでおります。

Peter Angelos said Orioles don't want 'or expect' Dan Duquette to leave http://t.co/ymf6M80m4T— Steve Frew (@OsFAN4ever) 2014, 12月 7

スプリングトレーニングが迫る中、このどっちつかずの落ち着かない状況のままキャンプインするのだけは避けたいはず。

オリオールズが納得のいく補償を得てデュケットを手放すのか。あるいは物別れになってチャラにもどるのか。ふたつにひとつしかないように思います。

【1/26】追記

どうやら交渉は成立せず、ブルージェイズはデュケット獲得をあきらめたもよう。ただ、公式発表はなにもないので、オリオールズ側には「これで何度目の破談だ?(また再燃するんじゃないのか)」という声もあるようです。

ただ、無名のマイナーリーガー何人かを差しだしてきたブルージェイズに対して、オリオールズが2014年ドラフトの全体9番め指名の右腕ジェフ・ホフマン+11番目指名の捕手マックス・ペンテコスト、さらに2012年の全体58番め指名の内野手ミッチ・ネイを要求したというのは本当らしい(ソース:MASN)。そんなの、ど素人のわたしだってジェイズが受けるはずがないことはよーくわかります(笑)。つまりオリオールズはデュケットをそれくらい評価しているんだから、軽い気持ちで手を出すなというメッセージ。これまでの「破談」のときは、「うーん、ほんとにこれであきらめるのかな?」という雰囲気がありましたが、今回はさすがに終わりでしょう。

オリオールズは、今週末がファンフェス。デュケットさん、たのむからすっきりさっぱりオリオールズでの任期をまっとうすると宣言してくださいな。そして残っている年俸未定者(ブリトン、ミゲル・ゴンザレス、スティーブ・ピアス、バド・ノリス、アレハンドロ・デアザ)との交渉も終えて、すっきりとキャンプインしましょう。