因縁のR.A.ディッキー
予想どおりというべきか、手もなくひねられました。
R.A.ディッキー。希代のナックルボーラー。
なんて知ったふうなことを書いておりますが、彼のことを知ったのはつい最近だし、投球を見たのはきょう(というかきのう)が初めてです。
1974年生まれだから上原より年上なんだ。わお。こちらをごらんいただければわかるとおり、2年前にも11勝9敗ERA2.84という成績を挙げてはいますが、本格的に世間の注目を集めたのは今年が初めてでしょう。
6月18日にして11勝1敗、ERA2.00。前のレイズ戦につづいて、2戦連続の1安打完封。これは1988年のDave Stieb以来24年ぶり、さらに先発5登板連続自責点ゼロで、その間各試合8三振以上というのはメジャー史上初だそうです。すごすぎる。(そしてまた地味に歴史の一翼をになうオリオールズ。)
試合結果はこんなでした。
オリオールズ0-メッツ5 ● 負:アリエッタ
5回まではいい投手戦を演じていたアリエッタですが、6回にヒットと四球で満塁にされるとアイク・デイヴィスのグランドスラムでドカン。「あの一球だけだった」とはいいますが、満塁でそれをやったらあきまへん。
ただ、登板の前々日、なにやら食あたりして何も食べられなかったそうで、それを考えるとまあがんばったのか……(ほんとうはそんなの勘案したくないのですが)。もう一度チャンスをもらえると思うので、次こそ「ためてドカン」はやめてね。
さてディッキーです。まずはきのうの動画を。ショウォルター監督は見逃し三振のストライクゾーンが気に入らなかったようで「打者だけでなく審判にとっても難しい球だった」とコメントしていましたが、打者は、たとえボールと判定してもらっても次で空振りしていただろうなと思わせる投球。とにかく気持ちいいほどバットに当たりません。
ただ、「手元でゆれる」というその感覚は、画面ではわからないんですよね。ウェイクフィールドについてもよく思ったけれど、ほんと、目の前で見てみたい。わたしの夢のひとつなんです。「バタフライボール」とも呼ばれるナックルボールを、目の前で見るのが。
オリオールズの選手たちのコメントによれば、ウェイクフィールドのナックルよりもスピードがあって、またさらに打ちにくいそうな。しかも見のがせばストライクだし。ほんとうに手も足も出なかったようです。
とはいえ、今年10月に38歳になることを見てもわかるとおり、ここまでの道はそりゃあもう尋常ではなかった。1996年のレンジャーズドラフト1位(全体19位)ながら、メジャーデビューまで5年かかり(その年はわずか4試合)、本格的に定着するまでは7年。(「オクラホマに7年もいて市長になれとすすめる人までいたけど、ぼくは市長(メイヤー)になるんじゃなくmajor(メイジャー)に行きたかった」――著書より。)
しかもメジャーにあがったはいいが、次第に球速が落ち、ついに当時レンジャーズの監督だったバック・ショウォルターと投手コーチのハーシュハイザーに「ナックルボーラーになれ」とすすめられるのです。
そして2006年、ナックルボーラーとして初めて迎えるシーズン、開幕4戦めのデトロイト戦先発を任されたディッキーは、3回1/3、6被弾(7失点)というメジャータイ記録で撃沈。そのままマイナー落ちし、この年はもうメジャーに呼ばれることはありませんでした。(このあたりは著書Wherever I Wind Upのプロローグで語られていて、アマゾンで立ち読みできます。)
それからさらにもろもろの紆余曲折を経て、ようやく今年本格的に開花したナックルボーラー、ディッキー。きのう、オリオールズとの初戦、自分にナックルボール習得のきっかけを与えた、(そしてマイナー送りにもした)ショウォルター監督の前で、最高のピッチングを披露したわけです。
ショウォルター監督についてディッキーはこう述べています。
「レンジャーズでナックルの基本に取り組むきっかけを与えてくれた人だからもちろん感謝している。ぼくならできると信じてくれたんだから。だいぶ時間がかかってしまったけどね」
そして、そのショウォルター監督の前で好投を披露したことについては:
「詩的だよね。ショウォルター監督が最後にぼくの投球を生で見たのは、HRを6本打たれてメジャータイ記録を作った試合なんだから。こんなシナリオは神さまにしか書けない。ほんとに信じられないよ」(ソース:ボルチモア・サン)
まさしく。
いっぽうのショウォルター監督、試合前にはディッキーにナックルボールをすすめたことについて「彼はメジャーリーグの投手に必要な資質をすべて備えていたが、唯一、球速がなかった。ナックルの習得は本人がその気になるかどうかが大きかったが、彼はよろこんで挑んだよ」と語っていました。
でも、試合後、MASNのゲーリー・ソーンから「R.A.ディッキーはすごいですね」と水を向けられると、「すばらしいが、それどころじゃない。わたしはボルチモア・オリオールズのことで頭がいっぱいなんだから。相手がだれだろうと、完封されるのはいやだ」と、珍しくムキになって早口でまくしたててました(笑)。わりと負けても冷静に語るショウォルター監督を見なれていたのだけど、やっぱりすごい負けず嫌いなんだな。そんなあなたも好きです(うふふ。)
そして今日はサンタナ……連日タフなマッチアップですが、なんとかあがいて勝ちをもぎとってほしいです。
Go, O's!
【ひっそり追記】:やっぱり poetic はすなおに「詩的」って訳そう。いろいろこねくり回して「ロマン」とかも考えたけど、野球選手の試合後のコメントで、すっと poetic という言葉が出てくること自体がこのディッキーっていう人のユニークさなんだもの……というわけで、朝一番の推敲がこのブログってどうなんだ(笑)
【追記2】: あかん、今日はサンタナに7回0点。その後も押さえられて5-0と2試合連続同じスコアで完封負け。これでブレーブス戦の2試合連続完封勝ちと合わせて、完封試合が4連続。やったりやられたり。それが人生か……。
【12年12月追記】:先日Fan Graphs にあがったGif動画を。こりゃーすごい。ほんとにゆれてます。打者もたいへんだけどキャッチャーもたいへんだなあ。しかし来季はトロントですか。見る機会は増えそうだけど、かんべんしてくれー(苦笑)。
13年2月にディッキーの自伝 Wherever I Wind Up を読んだ感想の一部をこちらのエントリに記しています。中ほどまでスクロールしてください。